ドラムは簡単な楽器です
ライブを観て頂いたお客さんから「ドラムって難しそうですね」と言われる事があります…
「スティックってどういうの使ってるの?」
大学のジャズ研に入りたての頃、トランペットの先輩に聞かれました。特にこだわりもなかったので、メーカーもよく分からず、「なんか、普通のやつです」と答えました。
「え?スティックって結構大事なんじゃないの?」
そう言われて、ちょっと焦ったことを覚えています。
ドラムを始める時に、最初に買うものといえばスティックではないでしょうか。
僕は、高校の吹奏楽部でドラムを始めました。スティックは部室に余っていたものを使っていて、自分で買ったのは結構後になってからだったので、やっぱり人によりますかね。
よく生徒の方にも「スティックって何を買えば良いですか?」と聞かれることがあります。正直に答えると「人それぞれ好みがあるので、色々試してみてください」なのですが、これは身も蓋もありません。
特に初心者の方は、色々試してと言われても種類がありすぎて迷うことでしょう。サウンドハウスという、ミュージシャン御用達のオンラインショップがあるのですが、そこでスティックを検索してみると、メーカーだけで41社ありました。その各社から、さらに色々なタイプのスティックが販売されているので、途方に暮れる方もいるかもしれません。
そこで、ピンと思いつきました。
「他にはない、スティック選びの参考になるような記事を書こう!」
さっそく「スティック 選び方」で検索してみました。他に良いサイトがいっぱいありました。ぜひ、検索してみてください。
さて、なに書こうかな…と平静を装いながら逡巡した結果、
「私のスティック選び秘話」
を書くことにしました。秘密にしてきましたが、誰にも聞かれないので公開します。参考になれば幸いです。
スティックの先端部分をチップといいますが、チップの形状には色々あります。その一つにティアドロップ型というものがありまして、少し丸みを帯びた三角形のような、先端に向かって鋭くなっていく形をしています。吹奏楽の先輩にはそれを薦められました。お薦め理由は、チップが縦長でシンバルや太鼓に当たる面積が大きいから良い、だったと思います。
僕はその教えを「とりあえず、ティアドロップ型は良いものなのだ」と、大雑把に受け取りました。もちろん、忠実にそのタイプのスティックを使い続けましたし、後輩にも「とりあえず、良いものだから」とお薦めした気がします。もし、今もその教えが続いていたらもはや伝統ですが、伝統を疑っても良い頃かもしれません。
その後、大学でジャズ研に入り、冒頭のやりとりがありました。自分の、機材への興味の薄さを自覚した瞬間です。演奏に関わる大事なものだから、ちゃんとしなきゃダメだよ、と言われた気がして、焦ったのだと思います。
「叩いていて楽しいだけじゃなくて、やっぱり機材とか勉強しないとダメだなぁ」
と、思いを新たにしたかというと、そんなこともなかったのですが、それでもスティックは消耗品なので、買い換えるタイミングでちょこちょこ違う種類に手を出すようになりました。
そうこうしてるうち、太めで軽いタイプのスティックを使うようになりました。重そうなのに軽い、というギャップが使い心地よかったのです。とはいえ、太めで軽ければ何でも良かったので、どこどこのメーカーの何とかというシリーズ、みたいな事は何も覚えていません。唯一記憶しているのは、MAX BEATというメーカー?シリーズ?のスティックは重宝していました。理由は、安売りしていたからです。なんと500円。「安い、太い、軽い」です。スティックの話です。
それからまた時を経て、お茶の水までシンバルを買いに行った時のことです。
相変わらず、機材については興味や知識が薄いままなので、店員さんにお薦めを聞きながらシンバルを見ていました。その店員さんは、自分でもシンバルの買い付けに行ったりするほど博識で、色々と教えていただきました。
「最近のジルジャン(※)のシンバルは音がペラいんですよ」
※有名なシンバルブランド
と言いながら、バシャーン!と親の仇のようにシンバルを叩き
「ね?」
と言ってくる、博識な方でした。前のジルジャンの音もよくわかってない僕は、負けじと
「たしかに」
と返しました。
その後、店員さんに別のシンバルをチョイスしてもらいました。店員さんに試奏ブースへ案内され、店員さんにドラムセットのシンバルを入れ替えてもらって、店員さんが椅子に座って、店員さんがドラムを叩き始めました。
1分くらい試奏している店員さんの後ろ姿を見ながら、いま何してるんだっけ、と我に返り始めた頃、店員さんはサッと立ち上がって言いました。
「いやぁ、これは良いシンバルですね。僕も欲しいくらいです」
そう言って、店員さんは試奏ブースを後にされました。あの店員さんは元気にされているだろうか。
ここまではすべて余談で、ここから先が本題なのですが、そこでシンバルを試奏した時に「うわ、大好きな音がする…」と感動したのです。シンバルではなく、スティックに。
僕はブライアンブレイド(Brian Blade)というドラマーが大好きです。参加しているCDをコレクションしたり、ブレイドのドラムしか聴かなかった時期もあります。機材に興味ない僕でも、ブレイドが使っているものは知っていました。そして、ブースに置いてある試奏用のスティックの中に、ブレイドが使っているモデルのスティックがあったのです。好きな割に、そのスティックを試したことがなかったので、せっかくだからと使ってみました。
音の粒立ち、丸みを帯びた柔らかな響き、真っ直ぐに通るトーン、手に伝わってくるスティックの感触。
そのすべてに、これ良いなぁ…と感動したことを覚えています。ブライアンブレイドの音のニュアンスに近づいた気がして、気持ちよかったのです。他のスティックでも試奏しましたが、やはり音が全然違いました。それは、スティックだけでこんなに音が変わるんだ、という発見でもありました。
感動のあまり、シンバルはやめてスティックを買って帰りました。あの店員さんは元気にされているだろうか。
今もそのシリーズのスティックを愛用しています。
VIC FIRTHのSD2 BOLEROというメイプル材のスティックです。トップ写真のやつですね。結局、ブライアンブレイドが好きだからこの音が好きなのか、この音が好きだからブライアンブレイドが好きなのか、鶏が先か卵が先か分かりませんが、僕のスティック選びはこうして決まりました。
色々なネット記事を参考にして、オンラインで買うのも良いと思います。楽器屋さんに足を運んで、何十種類ものスティックを試奏してみるのも良いと思います。「ちょっと貸して」と知り合いのドラマーから借りるのも良いでしょう。スタジオやライブハウスに落ちているボロボロになったスティックは、捨てても良いでしょう。
身も蓋もありませんが、やっぱりスティックは
「人それぞれ好みがあるので、色々試してみてください」
これに尽きます。